日本人は、どこから来たのか?
ご先祖様をたどっていくと、「日本人のルーツ」という問いにたどり着きます。今回は、かなりさかのぼって、200から250万年前のアウストラロピテクスと250万から150万年にかけて生息していたホモ・ハビリスと10万年ころ生息していたネアンデルタール人について。
私たちの祖先であるホモ・サピエンスが誕生するまで、その共通祖先から類人猿や原人、そして旧人と分岐していきましたが、現在まで生き残った種はほんのわずかにすぎません。
現在最も古いとされる人類は、2001年に中央アフリカのチャドで発見された猿人サヘラントロプスです。頭蓋が小さく、脳は320㏄~380㏄程度ですが、直立二足歩行をしていたと考えられています。(ホモ・サピエンスの脳の容量は、1270cc~1430cc)二足歩行を始めた理由は、まだ明らかになっていませんがこの進化の適応が、人類の進化の上での重大な事件だったことには、間違いありません。
肉が人類の命運を分ける
200~250万年前のアウストラロピテクスと重なる時期にパラントロプスという種がいました。パラントロプスの顎と臼歯が巨大化していました。乾燥化などの環境の変化で堅くて栄養価の低い野生のイネ科の植物や根茎などを大量に食べなくてはならない環境に適していたようです。パラントロプスの生活は、頑丈な顎を使って一日中何かを食べているというものでした。
一方、パラントロプスがそのような生活を送っている間に、生態系で同じ地位を占めるほかの生物のアウストラロピテクスなどの別の人類は、肉を食べることを覚えました。これが、両者の命運を分けたようです。肉という栄養価の高い食物を食べるようになった者には、一日中何かを食べ続ける必要がなくなり、時間的な余裕ができました。時間的な余裕ができたことで食べること以外に脳を使うようになり、発達し、次なる進化の階段を上り始めました。一方、パラントロプスは、新たな環境の変化に遭遇したときに対応することができず、絶滅してしまったようです。
アウストラロピテクスは、最初の「ヒト属」つまり、頭にホモのつく種類へつながったと考えられています。日本人へとつながる長い道のりをひとつ進んだのです。
手先が器用なヒト ホモ・ハビリス
250万から150万年にかけて生息していたホモ・ハビリスという種が登場します。ホモ・ハビリスとは、「手先が器用なヒト」という意味で、明らかに道具を使って生活していたことが考えられることから、このように名付けられました。ホモ・ハビリスは直立歩行をしていたため、道具を巧みに作ることができました。道具を作るという作業は、目と手を正確に連動させなければならず、運動技能の十分な発達が求められます。道具作りに刺激されて、脳はますます大きく進化しました。ホモ・ハビリスは、脳の容量が600ccから800ccある大型のものと500ccから650cc程度の小型のものがいるなどばらつきがありました。しかし、体の大きさとの比でいえば、他のほ乳類の脳の4倍はあったようです。大きな脳は、多くのエネルギーを消費します。(ホモ・サピエンスの脳の容量は、1270cc~1430cc)
現在の私たちの脳は、一日におよそ400キロカロリー消費しています。考えるために食べるともいえます。こうして、二足歩行、狩猟、武器、道具、知性を発達させていく進化の連鎖がスタートしたのです。
高い知能と知性を持つネアンデルタール人
10万年前ころヨーロッパから西アジアにかけて、ネアンデルタール人がいました。顔つきは、ホモ・サピエンスとかなり異なっていました。直立姿勢で歩き、毛深く、頭の後方部分が大きく眼窩上隆起がはっきりしており、胴長短足のずんぐりした体型で、体表面積が少なかったので、氷河期の厳しい寒さの中体温を保つことができたようです。脳の容量は、現生人類と同じまたは、大きいくらいであり、共通する行動や習慣が数多く見られています。地中に死者を装飾品とともに埋葬したり、精巧な薄片石器を作り、木の柄をつけて槍にしたり、皮をなめしたり、食物の繊維を取り出していたようです。また、1995年にスロベニア出身の古生物学者イヴァン・テュルクが世界最古のネアンデルタール人の笛だったかもしれないと考えられる物を発見しています。音楽を奏で、死者を葬り、武器や道具を扱う、このように、高い知能と知性があったにもかかわらず、3万5000年ほど前に、ネアンデルタール人は滅び、ホモ・サピエンスだけが生き延びました。急激な寒冷化や、ホモ・サピエンスとの競合が原因とも言われているがはっきりとした理由は、分かっていません。
2010年にホモ・サピエンスとネアンデルタール人の異種交配があったことを支持する研究結果が発表されました。「ほとんどの現代人のDNAの中には、ネアンデルタール人由来のDNAが1~4パーセント含まれている。ネアンデルタール人とホモ・サピエンスが交配したのは、6万年前頃の中東である可能性が高い。」というものでした。アジアの東の果ての島に暮らす日本人にも、はるかな時空を超えてネアンデルタール人のDNAが受け継がれている可能性があるのです。
【参考図書:137億年の物語宇宙が始まってから今日までの全歴史 著クリストファー・ロイド 訳野中香方子 株式会社文藝春秋】
(黒川総研 系図倶楽部より)