幕末の動乱|倒幕資金

「令和」の発表のあと、2024年度から使われるという新しい紙幣が発表されました。キャッシュレスの方向に進む方針や高額紙幣廃止説も飛び交っていたので、このニュースを聞いたときは、事実かどうかを疑ってしまいました。さて、今回はそんなお金にまつわる「倒幕資金」の話。

一航海で1億のビジネス「北前船」

ご存知、江戸後半に「動くマーケット」と呼ばれた北前船。運搬する運賃で利益を出すのではなく、相場を見ながら安くものを仕入れ、高く売るといった「買い積み」が北前船のビジネスの本質です。北前船は、莫大な利益を生み出し、「一航海千両」とも言われていました。現在の価値でいうと、一航海で、1億円とも試算されます。ただし、相場を見誤ると、大きな売り損、そして航海による事故など命の危険が伴う、ハイリスク・ハイリターンのビジネスでもありました。

薩摩藩と越中の薬売り

薩摩藩は、火山灰地で農業の生産性も低く、常に財政大赤字の藩でした。そのため、鎖国下にありながら、薩摩藩は琉球王国と貿易を行い、清国と密貿易をはじめます。当時、中国は、甲状腺の病気を患う人が大勢いたため、ヨードやカリウムなどミネラル豊富な昆布を欲しがっていました。

そこで薩摩藩が、目をつけたのが加賀前田藩領内の越中の薬売り。当時、中国からの麝香や牛黄などの貴重な漢方薬は幕府の統制下にあり、種類・量も限られ大変高価なものでした。そのため、中国からの漢方の原料となる薬草と引き換えに、富山の薬売りたちに昆布を調達させて、琉球王国経由で輸出することを考えました。これが、薩摩藩による本格的な密貿易のスタートです。

この利益の一部が、篤姫の徳川家の豪華な嫁入り道具となっています。島津斉彬ががルイ・ヴィトンのトランクを愛用していたのも有名な話。

この密貿易で、薩摩藩は財政を大きく立て直し、洋式の製造所を何箇所か建設しました。ガス灯、ガラス、陶磁器、紡績、火薬、弾丸、小銃、大砲など武器を製造しました。そして、そこで造られた大砲が、世界最強といわれるイギリスの軍艦7隻に大損害を与え、その後倒幕の武器に用いられました。

つまり、この昆布による密貿易の利益が倒幕資金となったのです。

最後に

正式な家系図を作成する場合は、戸籍を取得してご先祖様をたどっていきます。たいてい、幕末生まれのご先祖様のお名前まで判明します。幕末は、日本全体が動乱の時期です。そして、その資金源が、薩摩藩の昆布の密貿易であり、越中富山の薬売りも関わっているとは、なかなか面白いですね。

【参考図書:昆布と日本人 奥井隆 日本経済新聞出版社】

(黒川総研・系図倶楽部より)