相続の基礎知識(2)遺言
今回のテーマは、「遺言」です。セミナーなどで伺うと、エンディングノートや遺言書などは、書いておいたほうがいいのだろうなと考える人は多いのですが、実際に作っている人は少ないようです。しかし、私が法律事務所にいたときは、やはり相続のトラブルは多く、「遺言書があれば・・」というケースは、多々ありました。遺言は、本人が、家族などにしてあげられる「最後のラブレター」なのでは、ないでしょうか。
相続の基礎知識(2)遺言
相続の基礎(2)遺言では、下記についての説明です。
1 「遺書」と「遺言書」は、違うのか?
2 3つの遺言書の形式
3 寄与分とは
4 特に遺言書を残した方がいいケース
5 追記
1 「遺書」と「遺言書」は、違うのか?
遺書は、自分の感情中心で、法的効果を意識して書かれるわけではありません。遺言書は、財産の相続、処分、子供の認知など法律的効果を意識して書くものです。
「民法」では、遺言できる事項を限定しています。簡単に言うと、どの財産を誰にどのように渡すかということです。
葬儀の方法、残された配偶者の介護や扶養の方法、兄弟仲良くなどの遺訓なども伝えておきたいと言う場合は、遺言書の最後の付言にかきます。手紙でいうと、追伸といったところです。ここには、法的効力はないのですが、最後のメッセージということで受け止めてもらえるでしょう。
付言の注意点は、家族への感謝のような温かい愛のメッセージを書くとよいでしょう。たとえば、次男にさんざん苦労をさせられたなどの恨み言を書くと、たとえ事実だとしても、トラブルのもとになるので、避けたほうがいいと思います。
2 3つの遺言書の形式
遺言書のタイプは、大きく3つに分かれています。
- 自筆証書遺言
- 公正証書遺言
- 秘密証書遺言
自筆証書遺言
名前の通り自分で書いて、判子を押すだけです。とはいっても、高齢になると全文を自分で書くのは、なかなか困難です。しかし、今回の民法改正(平成31年1月13日施行)で、自筆証書遺言に添付する財産の目録については、自書することを要しないことになりました。つまり、PC等で作成した書類でも大丈夫になったので、作成の負担が減りました。
また、こちらの方法は、コストがあまりかからないメリットがあります。
そして、令和2年7月10日から施行されるのですが、法務局が遺言書を保管してくれるようになります。
公正証書遺言
こちらが、遺言の内容がほぼ確実に実現される可能性が極めて高いので、遺言書の作成の相談に来られる方の大半はこの方式で作成されます。公証人と証人2名の立会いの下、公証役場で作成されます。遺言者は、その内容を確認して、署名・押印だけすればいいのです。こちらは、家庭裁判所での検認が不要であり、残された方への負担もありません。
デメリットとしては、費用がかかります。変更や書き直しに手間がかかります。
※証人について 公証役場で作成する遺言書は、証人2人以上必要です。次の方は、証人になることが出来ません。
・未成年者
・推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族
・公証人の配偶者・四親等内の親族・書記および使用人
秘密証書遺言
実際、この方法で作成される方は、ほとんどいません。作成方法は、公正証書遺言と同様公証人と証人2名の立会いの下、公証役場で作成されます。遺言の存在だけを明確にして、内容は、公証人や証人に知られることがありません。また、遺言の保管を行わないので、紛失、未発見の恐れがあり、検認が必要です。
※検認・・裁判所で行う遺言書が誰かが勝手に書き換えたりするのを防ぐ手続き。封印のしてある遺言書は、家庭裁判所で相続人等の立会いの上開封する必要があります。遺言書を見つけて、あわてて開封すると、5万円以下の過料に処せられますので、お気をつけください。
自分で書くことが要件ではないので、費用をかけたくないが自書するのが困難である場合や毎年頻繁に撤回する予定があり、作成費用を抑えたい場合などは、こちらのタイプが有益かもしれません。
3 寄与分とは
被相続人のために多大な貢献をした相続人には、他の相続人より多めに遺産をもらう主張をすることができます。しかし、貢献したとみなす範囲が非常に曖昧で、主張する相続人と他の相続人との話し合いがまとまらず、もめるケースが多いです。
たとえば親を介護した子供が、他の共同相続人より多く遺産をもらいたいと寄与分を主張する。しかし、他の共同相続人が法定相続分を主張し、平等な相続権を主張することが多く、相続人間で話がまとまらない場合は、家庭裁判所が寄与分を決める事になります。
この寄与分の主張は、相続人に限られていました。しかし、法の改正で、相続人でない、例えば息子のお嫁さんも主張できるようになります。(※特別寄与料の請求:施行令和元年7月1日予定)しかし、トラブルになると思い、黙っている場合もあるでしょう。
もし、介護や、事業を手伝っている方に感謝の証として財産を残したいのであれば、あらかじめ遺言で残してあげるといいでしょう。
4 特に、遺言を作成した方がいい方ケース
1 兄弟姉妹の仲が悪い
2 子供がいない
3 先妻、後妻ともに子共がいる
4 内縁の配偶者やその人との間に子供がいる
5 結婚した相手に連れ子がいる
6 未成年の子供がいる
7 相続人が多い
8 面倒を見てくれた嫁がいる
9 相続させたくない相続人がいる
10 相続人がいない
11 自営業者や農家
12 自宅等以外に分ける財産がない
13 行方不明の相続人がいる
14 かわいがっているペットがいる
追記
家族が、本人に「相続」についての話をきりだすきっかけとして「家系図」がおすすめです。
家系図は、相続の話を切り出すきっかけとなる以上に、家族の繁栄に繋がります。
「家系図を作るほどの家ではないと思っていたが、実際見ると、自分の知らない先祖・親族の存在。人との繋がりを体感し、子供に渡していきたい」と感動される方が多いです。
(黒川総研 相続倶楽部より)