戸籍|無戸籍について

松本清張の「砂の器」をご存じですか。この小説の中の犯人は、空襲で戸籍が消失したことを機に、偽名の戸籍を届け出て他人になりすましていました。小説だからと思うでしょうが、実際にこのような届出をすることは、可能だったようです。終戦直後には、戸籍の売買も行われていたという報告もあります。

現在は、戸籍の大部分がコンピューター化していますが、滅失の危険がなくなったわけではありません。東日本大震災で津波に襲われた役場では、コンピューターの戸籍データが失われ、一時戸籍の発行をすることができなくなっていました。

戸籍がないとは

戸籍がないということは、日本国に存在していない人ということになるのです。つまり、住民票が作れない、義務教育を受けるのが難しい、健康保険証がないので医療費は自己負担、選挙権がない、銀行口座が開けない、身分証明書がないので就労が困難というように、生きていく上でありとあらゆる不都合や不安と直面するのです。現在、日本には少なくとも無戸籍者が一万人いると推定されています。最近では、映画やドラマのテーマにもなっているので、皆様の関心も高くなってきたのではないでしょうか。

無戸籍者となる理由

① 民法772条が壁となっている
772条の嫡出推定の規定により、前夫を父のことすることを避けるため、出生届を出さない・出せない
② ネグレクト、虐待
③ 戸籍制度そのものに反対
④ 身元不明人
⑤ 戦争、災害で戸籍が消滅した
⑥ 天皇及び皇族

※民法772の2
婚姻の成立の日から200日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。

まとめ

ある日突然、地震・津波が来たら、サイバー攻撃に襲われ、戸籍が大量滅失すれば、誰でも「無戸籍者」になる可能性があります。そのような非常時を想定して、戸籍を取得して自分で保管しておくということも、意外と大切なことかもしれません。

追記

井戸まさえ著書の「無戸籍の日本人」(集英社文庫)に下記のような記載がありました。

『住民票があり、マイナンバーができ、それでも戸籍が残っているのは、家族を語るとか、先祖をたどるとか、自分が何者かというアイデンティティの問題に関わってくるからだと思います。』
『日本人は戸籍に対するこだわりが強いわりには、自分で管理しないんです。それだけ国家を信頼しているのかもしれませんが、信頼と依存って表裏一体なのかもしれない。』

(黒川総研 系図倶楽部)